ヴィクトリア時代の台所~19世紀英国の料理本を読む~

19世紀に書かれたイギリス料理の本を拾い読みしながら、当時の暮らしに思いを巡らせてみるブログです。

Frozen Pudding(凍ったプディング)

冷たいデザートのレシピをご紹介していきたいと思います。

今日は、Frozen Pudding。イギリス英語の「pudding」にはいくつかの意味がありますが、この場合はデザートの意味かと思います。アイスクリームのレシピの一番目に掲載されているので、人気のデザートだったのかもしれません (あくまでも推測です、念のため)。  

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 <作り方>
1パイントのクリーム、卵黄4個、1オンスのアーモンド粉でカスタードを作る。好みの量の砂糖を加える。冷めたら凍らせる。その後、小さく切った preserved fruit (砂糖で煮たフルーツ) とグラス2杯のブランデーを加える。 

何とも曖昧なレシピですね (笑)。この本のレシピは、ほとんどこんな感じです。細かいところはシェフの裁量に任せる、というところでしょうか。それはさておき、このデザートはバニラアイスクリームのようなものと想像します。

挿絵のページに、Ice Pudding というのがありました。こんな感じで上にフルーツを添えて供されたのでしょう。

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この絵のように、アイスクリームを装飾的な型に入れて固めることも多かったようです。型を使用する際のヒントも掲載されていました。

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ポイントは、 

型に入れる際は、凍らせすぎないように注意し、型の細部までいきわたるようにする。アイスを型に入れたら紙でぴったりと蓋をする。氷と塩が入った容器に型の表面が万遍なく触れるようにして入れる。また、アイスは甘すぎてはいけない。甘さを計るには saccharometer (糖度計) を使うと良い。

糖度計!なんだかプロフェッショナルな響きです。この時代にそんな技術があったことにも驚かされます。

型は、錫などの金属製だったようです。こちらの動画を見ると、実際にどのような型が使われていたのかを見ることができます。6~8秒目にグレーの容器が三つ並んでいるのが見えると思いますが、多分こういう型です (確証はありませんが)。動画では、きゅうりのアイスクリームの作り方が解説されています。

実際に作ってみると面白いかもしれませんね。この記事を書いている時点で、イギリスは寒い天気に逆戻りしてしまったので、アイスクリームは当分おあずけです (夏なのに暖房を入れたいくらい…)。

冷たいデザートの作り方:19世紀の製氷機

アイスクリームやシャーベットのレシピがあることから、食料品を冷蔵保存するだけでなく、冷たいデザートも食されていたことがわかります。でも、冷凍庫がないのにどうやって氷菓子を作っていたのでしょう? 

氷に関する章を読むと、この頃にはすでに氷は高級品ではなくなり、「1ポンドあたり1~2ペンスで、中流階級でも手の届くほど安価になった」と記述されています。さらに、新製品の「Piston Freezing Machine」(ピストン式製氷機?) なるものを使って、アイスクリームや氷を家庭でも作れるようになったとのこと。女性でも一人でらくらく操作できます、と謳われている機械がこちらです。

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使い方を要約すると、

  1. 砕いた氷、塩、水を2:1:1の割合で製氷機に入れる
  2. ピストンを上下に動かすと氷がかき混ぜられ、その動きによって容器が回転する
  3. 容器の中に差し込まれている攪拌棒によって、中に入っているクリームなどの液体が攪拌される
  4. 液体が凍ったら攪拌棒を取り出し、presser (重しのようなものでしょうか?) を入れ、しばらくの間押さえつけて固める

となります。現代のアイスクリームメーカーと似たような仕組みですね。容器はデザート型の役割も兼ねていたようです。真水を入れて氷を作ったり、ワインを冷やしたりするのにも使えると書かれています。

 

19世紀末のアイスクリームやシャーベットは、一体どんな味がしたのでしょう?

次回はレシピを読んでみたいと思います。



19世紀末にも冷蔵庫があった? Cabinet Refrigerator の話

イギリスの夏といえば、比較的涼しく爽やかな印象がありますが、この数年は真夏日が続くことが多く、日中は外出をためらうほどです。とにかく日差しが強くて暑い。そのうえ湿気が少ないので、カラカラに乾いて干物になりそうです(笑)。 

今ほどではないにせよ、昔も夏は暑かったはず。では、まだ冷蔵庫がなかった時代には、どのように食料品を保管していたのでしょうか。 

本によると、Cabinet Refrigerator (Ice Safeともいう) というものが存在していたようです。外観はおそらく木製の普通のキャビネットですが、中には氷を入れる場所と食料品を置く棚があり、内部の表面には金属の板のようなものが張られていたようです。この本で紹介されているのは当時新発明の「Self-feeding」タイプで、氷が常にキャビネット内部の壁に接触しているため、低温状態を保つことができる仕組みだそうです。 

<図 1>

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A. ホッパー (hopper) とよばれる氷を入れる場所
B. 徐々に溶けた氷が落ち込むV字型のくぼみ
C. 冷水用タンク (見えにくいですが、天板の左上コーナーにあります)
D. 食料品などを置く棚

<図 2>

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溶けた氷は金属製の底に溜まるようになっている。
詳しくは書かれていないが、換気装置も備わっていたらしい。

 この「画期的な」発明によって、数日間は低温を保つことができたようです。中の温度は「最低温度は32°(0℃)、各棚の温度は約40°(4.4℃)に保たれる」との記述があります。現在の冷蔵庫でも5℃ぐらいなので、機能的にはなかなか優れていたのではないでしょうか。 

夏でもアイスクリームやシャーベットなど冷たいデザートを作ることができたようです。これらのレシピも順次ご紹介していきたいと思います。

 

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はじまりは一冊の本から

 私の手元に、一冊のとても古い本があります。背表紙は剥がれかけ、ページの端々は黄ばみ、開くとバラバラになりそうなその本は、イギリス人の夫の祖母が所有していたもの。『Warne's Model Cookery』と題されたこの本の出版年は不明ですが、表紙をめくると所有者らしき名前と「1885」という書き込みがあることから、1885年以前に出版されたものと推測されます。

 料理本といっても、レシピだけでなく、食材の選び方や買い物のしかた等も記されていて、この一冊で食事全般にかかわる家事を学ぶことができるようになっています。昔は結婚のお祝いとしてこのような本をプレゼントしたそうなので、この本も夫の祖母の母か、親族の方に贈られたものではないかと思われます。

 時々ぱらぱらと拾い読みをするたびに新しい発見があり、とても興味深い本です。聞いたことのない料理や食材を見つけたり、大きなお屋敷での当時の暮らしぶりを想像してみたり。調理方法やキッチン道具の挿絵を眺めるのも楽しいものです。

 このブログは、そんな本のページを気の向くままにめくり、ヴィクトリア時代のイギリスの生活に思いを巡らせてみる、という企画です。季節折々の料理や習慣を通じて、19世紀末の暮らしを一緒に覗いてみませんか?

   

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100年以上も前に出版された料理本には歴史が染み込んでいるよう

 

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